第7話:早く楽におわる治療は良い治療?
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第7話:早く楽におわる治療は良い治療?
治療結果が良いことは当たり前と患者さんは考えているはずです。
患者さんの負担が少ない矯正治療を宣伝する場合があります。確かに矯正治療は患者さんに一定の負担を課しているというのは否定できません。例えば、装置が見えること、長い治療期間、顎外装置などがそれにあたると思います。「装置が見えなければいいのに」「治療期間が短ければいいのに」「ヘッドギアなんか使いたくない」こういう希望はもっともです。
私は、矯正治療の目的は 歯並び 咬み合わせ 横顔をきれいに 治療結果の長期安定性 の4つと考えていますが、この全てを妥協無く治療できるのであれば装置はなんでも構わないし、治療時間も短いにこしたことはないし、ヘッドギアも使わなくてよいと思います。でも実際にはそうならないこともあります。
装置がみえるということ。「裏側からやる治療、もしくはマウスピースの治療ができれば」と思っているひとは多いはずです。私自身は裏からやる治療もマウスピースを使う治療も方法としては全然悪くないと思っています。
でも、表側の治療と全く同一の条件で治療が進まないこともあります。新しい治療法が出てきた場合、従前の治療法(表側の装置)と同じ結果を求めて治療するためには創意工夫があり、これらの装置(裏側の装置やマウスピースタイプの装置)はまだそういう段階を脱したとは言い切れないと考えています。
もちろんこれは患者さんの状態によって異なります。要は装置のメリットだけでなくデメリットも明確になった上でその装置を選択できているかどうかが大切なポイントなのです。デメリットもあるけどそれをわかった上で患者さんがその装置のメリットを優先するということであれば、その意見は医療の常識に照らし合わせて尊重されると思います。
患者さんのニーズと専門家の責任
簡単な例をあげてみましょう。患者さんの希望にそって取り外し式の装置を使って、患者さんの主訴である歯のでこぼこが治りました。でも咬み合わせがぐちゃぐちゃになってしまいました。こんなことであれば医療従事者としては取り外し式の装置を勧めてはいけないと僕は考えています。
患者さんのニーズに沿ってという言葉を使う先生もいますが、患者さんからすれば当然受容できる治療結果が得られると信じているわけですから、患者さんが望んだのでこの装置を使って咬み合わせは少し(ひどくという場合もあります)悪くなりましたというのは理由にならないと私は思います。
治療結果が良いことは矯正治療において何よりも優先すると考えています。矯正治療は別にやらないと死んでしまう治療ではありませんから、そういう治療をあえて大金を払って行う場合、一番大切なのは治療結果ではないかと思います。良い治療結果を見据えた中で、治療中いかに楽に過ごすためにはどういう装置や方法があるのかということを考える必要があるかと思います。
歯科矯正用アンカースクリューかヘッドギアか
私の考える矯正治療の目的のうち 歯並び 咬み合わせ 横顔をきれいに の3つを達成するにはヘッドギアもしくは歯科矯正用アンカースクリューの使用は不可欠な場合がほとんどと考えています。
実際、永久歯列の治療でこのどちらも使っていないというひと患者さんは私の患者さんでは、ほとんどいません。とくに横顔をきれいにするということを考えた場合に、この2つの装置は非常に有用な装置となります。
矯正医がヘッドギアも歯科矯正用アンカースクリューも用いずに顔貌の改善にとりくむのは、よほど条件が揃わないと難しいと思います。もしヘッドギアも歯科矯正用アンカースクリューも使用しないという診断が出た場合は、矯正医が真剣に横顔の改善もしくはキープを求めていないか、患者さんが横顔の改善もしくはキープを望んでいないかのどちらかである可能性が高いと推測します。
横顔の改善という治療の目的は、患者さんの希望次第で取り組むかどうかを決めて良い部分です。患者さんが横顔は良くならなくてよいからヘッドギアもスクリューも使わないということであれば、ヘッドギアやスクリューを使わない治療で横顔以外の治療がしっかりとできるということであれば、患者さんの希望にそってよい部分かとも思います。
でも、当院ではやはり横顔は改善したいという患者さんが多いですし、どうせ矯正やるのであれば横顔が良くなるほうが良いのではないですかと私もお話させていただきますので、どちらかを使うという患者さんが主流です。ただし今ある良い横顔を悪くしてしまうということは避けたいと私は思っていますので、その場合はしっかりとこのことを患者さんにはお話しします。
歯科矯正用アンカースクリューは約10年前の認可以来急速に普及がすすんでいます。用途としてはヘッドギアの代替となる装置です。2021年現在、当院でも約半数くらいの人が使用しています。
使用を躊躇する人は「怖そう」とか「痛そう」という不安を口にしますが、実際やってしまうとどうってことはないというのが大方の感想です。ヘッドギアをしっかり使ってくれれば、歯科矯正用アンカースクリューを使わないと治らないという症例はないと考えています。
ヘッドギアはどれくらい使う必要があると考えているかというと、簡単な症例では1日8時間、難しい症例では10時間というのをひとつの目安にしています。使う時間は連続でなくても構いません。でも使用が大変、面倒だ というのはヘッドギアの最大の弱点ですので、このヘッドギアを使わなくて良いというのは歯科矯正用アンカースクリューの患者さん側からの利点で、矯正治療を楽にする要素となると思います。
一方で矯正医サイドからみても患者さんがヘッドギアをしっかり使うかどうかに治療の成否が関わりませんし、使いようによってはヘッドギアを24時間使うのに匹敵するような力の適用が可能になるので大変便利な装置です。
でも歯科矯正用アンカースクリューにもいくつか弱点があります。なかでも一番の問題は安定して植立できず抜けてきてしまうことがあることです。骨の表面には皮質骨という薄いけれども硬い部分があり、この部分にスクリューのネジが嵌合することで植立状態が維持されるというのが最近の考え方です。
この皮質骨が薄すぎる場合、柔らかい場合などは支える部分の強度が足りずにスクリューに動揺が見られたり脱落することがあります。この脱落をいかに防ぐかというのは、今後の課題であると思いますが、現状5~20%の脱落率というところと思います。
取り外し式矯正装置のメリット・デメリット
取り外し式の装置が楽だと思っている方は多いと思います。代表的なものは拡大床やマウスピースタイプの装置です。
確かに歯磨きを行う際は取り外しの装置の方が楽になると思います。しかし例えばマウスピースタイプの治療装置の場合、一日に必要な装着時間が20時間ということをきいて他の装置にすることにしたという方が少なくありません。脱着が自分の意志でできるものを2年間の治療期間にわたって、食事の時間以外はずっと装着しているというのは決して簡単なことではないと感じるのではないかと思います。
私が治療させていただいた患者さんでは、このマウスピースタイプの装置を途中で断念したという方はいらっしゃいません。おそらく最初に「使用が意外と大変」であることをしつこく説明させていただいているからだと思います。固定式の装置による治療を途中でやめるには、装置をはずさなくてはなりません。
基本的にはこれは歯科医師に撤去を頼む必要があります。しかし、取外し式の装置の場合は通院をやめてしまえば良いだけですので、治療中断への敷居が非常に低いです。取外し式の装置は患者さんの矯正治療への敷居を下げるのがその大きな利点になるのかもしれません。
マウスピース型装置による治療のように、敷居が低いものを超えてきた場合やめるのも簡単というのはある意味合理的ではありますが、治療を中断する患者さんにはまったくメリットはないばかりかデメリットのほうが大きいと思います。
このことは小児期に行う拡大床の治療にもあてはめることができます。お母様お父様が取り外し式の装置で治療を望む場合、主な理由は 固定式装置をつけるのが可哀想であるということと、固定式装置は歯磨きが大変そうの二つであることが多いです。
可哀想であるという場合は、大人と同じく装置のメリットデメリットを良く検討していただいて決めてもらうしかありません。また後者については、歯磨き自体は難しくはなりますがご家庭での努力で充分むし歯は予防できます。逆にいうとそういう努力も厳しいというご家庭では、取り外し式装置を使わせるのが困難になるということもあります。
院長
高橋 滋樹世界でもっとも伝統があるTweed philosophy(ツイード・フィロソ フィー)に基づく治療を実践。2015年には、アメリカのTweed philosophyスタディコースでインストラクターを取得し、ツイードテ クニックをマスターしています。